[リア充コンビ]




「リア充氏ねとはなんだい?平賀」
平賀がノートパソコンを使ってネットサーフィンを楽しんでいると後ろから興味深そうにロベルトが画面を覗き込んできた。
「あなた、いたのですか?いたのでしたら声をかけてくだされば良いのに」
「きみがあんまりにも楽しそうにしていたからね、邪魔しちゃ悪いと思って」
いたずらっぽくロベルトが笑う。
いつものことだ。
平賀が自宅にいるときは鍵をかけていない。
何かあったときのためにいつでもロベルトが出入りできるようになっている。
しかし今回のような場合は、平賀としては驚かされるばかりなのでちゃんと声をかけて欲しいのだが…どうやら彼は平賀の驚く様子を見て楽しんでいる節があるようだ。

ところで、その時平賀がたまたま開いていた匿名掲示板には、「リア充氏ね」といったキーワードが頻繁に表示されている。
「はて、どういった意味でしょう。私も日本語のネットスラングにはあまり詳しくないので、ちょっと調べてみます…」
そう言うと平賀は検索欄に単語を入力した。
どうやら、私生活が充実して楽しげな人を妬む意味で使われているらしい。なんとなく気持ちはわかるが、気分の悪くなる言葉だとロベルトは思った。
そもそも幸福は己の内側に見出すものだ。
他人の目にどう映るかで、簡単に決められるようなものではないだろう…少なくともロベルトにはそう教えてくれた友人がいる。

「あまり僕たちには使う機会がなさそうな言葉だったようだね」
「そうですね。私は聖徒の座で興味深い研究ができて充実していますし、あなたがいてくださるおかげで毎日が楽しいです。でも、こんな私は誰かから妬まれているのでしょうか」
「きみを妬む人間がいたとしたら僕がやっつけるよ」
「やっつけるなんて、物騒なことを言わないでください。話せばわかってくださるはずです」
ロベルトの冗談に平賀がムキになって返してきたので、ロベルトは話題を逸らさせた。

「ところでこっちの、DT引きニートとはどう言った意味だろう?」
平賀は単語からなんとなく嫌な予感を感じながら再び検索欄に言葉を投じた。
DTは童貞の略称で、引きニートは就労できる状態にあるものが、何らかの理由で家に引きこもってわざと働かないことを指すらしい。二人は気まずくなってしばし閉口した。
「…確かに僕らは童貞だし、労働はしているけども僕なんかは家で読書をするのが好きだからほとんど引きこもりみたいなものだ。きみがいなかったら、美味しいお店を見つけるために外へ出かける気にもなれないしね」
ロベルトが自嘲気味に笑う。
「私も休みの日は家で一日中こうしてネットサーフィンを楽しんでいることが多いですが…童貞で引きこもりであることがそんなに悪いことなのでしょうか?多くの聖者たちは貞操を守って、隠遁生活をしてきたのです。悪いことではないと思います」
「そうだね。聖職につく以上は世俗からは離れて暮らしている。だからこれも、やっぱり僕たちにはあまり関係ない言葉だよ」
「そうですね。ところでロベルト。私はお腹が空きました」
「僕も腹ペコだ。近くに美味しいトラットリアを見つけたから一緒に行かないか?」
「良いですね!行きましょう」
平賀はパソコンを閉じて、意気揚々と部屋を出た。そんなに急がなくても食事は逃げていかないよ、と笑いながらロベルトが後を追っていった。


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